事例 18注意欠如多動症(ADHD)

忘れ物やケアレスミスが多い。気持ちや行動がひとところにとどまることがむずかしい。

そんな傾向があると、「自分はADHDではないのか」と不安に感じて相談にいらっしゃる方が増えています。

仕事や人間関係でうまくいかず、自分を調べてみたところADHDの傾向があったという人も多いかもしれません。

大事なことは診断名以上に自分の得意不得意を知って、伸ばせるところは伸ばし、補えるところは何かで補うということ。

あなたが望む場所、あなたにとって必要な場所に適応できればそれでいいと思うのです。

そのためにもまずは自分を知ることが大切。

心理療法で改善できる部分もあります。

そして今の自分を受け入れながら、そこをスタートラインにどう変わっていけるかが楽しみになるといいですよね。応援します。

相談例

大人/子供ADHD(注意欠如多動症)には①不注意、②多動性、③衝動性の特徴があります。その他にも④感覚異常、⑤二次障害・その他、⑥子供のADHDから大人のADHDへ移行するときの特徴などがあります。

    • ①不注意

    • 用事を先送りにする
    • 忘れ物が多い
    • 空気が読めず人の話が聞けない
    • 期日を守れなかったり遅刻したりする
    • ケアレスミスが多い
    • 家事全般が苦手
    • 事故にあいやすい
    • 片付けができない
    • 気が散りやすく集中できない
    • 計画を作ったり、遂行するのが苦手
    • 段取りが悪い
    • 単純作業や雑務が苦手
    • 途中で挫折する
    • ②多動性

    • 気持ちがあちこちにいってしまい、場の雰囲気をよめず、人の話が聞けない。
    • 期日を守れなかったり遅刻したりする
    • 家事全般が苦手
    • 事故に巻き込まれやすい
    • 落ち着きがなくソワソワしている
    • 注意が持続できない
    • 大抵の物事を途中でやめてしまう
    • ③衝動性

    • 衝動的な発言が多い
    • 自分の中にある衝動にとらわれてしまい、場の雰囲気に意識がいかず、人の話が聞けなかったり、失言してしまう。
    • ケアレスミスが多い
    • 衝動買いが止まらない
    • 事故に遭遇しやすい
    • 些細な事で口論になりやすい
    • 衝動的に重大な判断をしてしまう
    • 思いつきで行動してしまう
    • 段取りがよくない
    • 単純作業や雑務が苦手
    • 最後までやり遂げられないことが多い
    • ④感覚異常

      自閉症スペクトラム障害・発達障害全般に当てはまるものもあります。

    • 聴覚過敏
      例:大きな音や騒音、ザワザワとした環境に不快感を覚えます。小さな音でも違和感を覚える人もいます。
    • 視覚過敏
      例:日光や照明などの光を眩しく感じます。
    • 嗅覚過敏
      例:ちょっとした臭いでも不快に感じます。
    • 感覚過敏
      例:体に触れられることに不快感を覚えます。
      例:疲れているのに疲れを感じなかったり、睡眠不足なのにそれを感じなかったりします。
    • ⑤二次障害・その他

      自閉症スペクトラム障害発達障害全般に当てはまるものもあります

    • 依存症
      例:アルコールやタバコなど、ある特定のものに依存して、生活が破綻しかねない状態です。男性はアルコール依存症に、女性は買い物依存症に陥る傾向にあります。焦燥感や絶望感で落ち着かず、それを紛らわすために依存してしまうと考えられます。
      その他の依存症としては、インターネット依存、薬物依存、ギャンブル依存症、ニコチン依存症などがあります。
    • 摂食障害
      例:イライラを押さえるために食べ過ぎたり、痩せたいと思っても食べることをやめられなかったり、過食と嘔吐を繰り返す状態。
    • 睡眠障害
      例:夜になっても落ち着かず、寝なければいけない時間に活動してしまい、生活のリズムが乱れ、睡眠障害に陥る。
    • うつ病の症状
      例:うつ病になると、気分の落ち込みや興味の喪失、やる気の低下などが現れます。頭痛や不眠、吐き気、下痢や便秘などの身体症状も付随します。ほうっておくと自傷行為や引きこもりにつながることもあります。
    • 不安障害の症状
      例:不安障害になると、一般的には感じない強い不安や恐怖を感じます。そのため、日常生活や仕事に支障をきたすようになります。状況が長引くと引きこもりにつながることもあります。
    • 疎外感
      例:友人を作れず寂しさを感じる。人との交流は無理だと思い込むふしがある。
    • 劣等感
      例:周りの人と自分を見比べて、自分の良くないところばかりみて、落ち込む。
    • 低い自己評価
      例:自分をダメな人間だと思い込む。認知の歪み(考え方の偏り)や自暴自棄な態度につながる。
    • 抑うつ
      例:無力感。何もする気が起きない。
    • 上記のような感情から、自己否定的な考え方しかできなくなったり、周りの人の意見を耳を傾けなくなったり、何事もなげやりになったりします。

    • ⑥子供のADHD⇒大人のADHD

      年齢とともに起こる変化の特徴

    • 子供:落ち着きのなさなど多動性が目立つ。
      大人:年齢とともに多動性は弱まるが、忘れ物や集中力のなさといった不注意が目立つようになる。
    • 年齢とともに起こる本人の自覚

    • 子供:家庭や学校に守られているので、本人に自覚がない場合も多い。
      大人:家族や周りからの指摘で否が応でも本人も自覚することが多い。
    • 年齢とともに起こる自己評価の推移や二次障害

    • 子供:家庭や学校が守ってくれるので特にはない。
      大人:年齢とともに自己評価が極端に低くなることがある。その結果、うつ病、不安障害などの二次障害になることもある。
    • 年齢とともに推移する周囲からの評価

    • 子供:子供だからと大目に見られる。励まされたり叱られることで一時的に治まるので、個性の範囲内とみてくれる。
      大人:忘れ物ばかり、片付けできない、仕事をやりとげられないでは、周りから非難の目で見られる。子供の頃は見過ごされていた症状が、会社勤めや結婚生活などで目立ってくる。
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DSM-5-TRによる注意欠如多動症の診断基準

  1. (1)および/または(2)によって特徴づけられる,不注意および/または多動・衝動性の持続的な様式で,機能または発達の妨げとなっているもの:
    1. (1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり,その程度は発達の水準に不相応で,社会的および学業的/職業的活動に直接悪影響を及ぼすほどである:
      :それらの症状は,単なる反抗的行動,挑戦,敵意の表れではなく,課題や指示を理解できないことでもない.青年期後期および成人(17歳以上)では,少なくとも5つ以上の症状が必要である.
      1. 学業,仕事,または他の活動中に,しばしば綿密に注意することができない,または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり,見逃してしまう,作業が不正確である).
      2. 課題または遊びの活動中に,しばしば注意を持続することが困難である(例:講義会話,または長時間の読書に集中し続けることが難しい).
      3. 直接話しかけられたときに,しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ,心がどこか他所にあるように見える).
      4. しばしば指示に従えず,学業,用事,職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる,また容易に脱線する).
      5. 課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい,資料や持ち物を整理しておくことが難しい,作業が乱雑でまとまりがない,時間の管理が苦手,締め切りを守れない).
      6. 精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題,青年期後期および成人では報告書の作成,書類に漏れなく記入すること,長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいやいや行う.
      7. 課題や活動に必要なもの(例:学校教材,鉛筆,本,道具,財布,鍵,書類,眼鏡,携帯電話)をしばしばなくしてしまう.
      8. しばしば外的な刺激(青年期後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう.
      9. しばしば日々の活動(例:用事を足すこと,お使いをすること,青年期後期および成人では,電話を折り返しかけること,お金の支払い,会合の約束を守ること)で忘れっぽい.
    2. 多動-衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり,その程度は発達の水準に不相応で,社会的および学業的/職業的活動に直接,悪影響を及ぼすほどである:
      :それらの症状は,単なる反抗的態度,挑戦,敵意などの表れではなく,課題や指示を理解できないことでもない.青年期後期および成人(17歳以上)では,少なくとも5つ以上の症状が必要である.
      1. しばしば手足をそわそわ動かしたりどんどん叩いたりする,またはいすの上でもじもじする.
      2. 席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室,職場,他の作業場所で,またはそこにとどまることを要求される他の場面で,自分の場所を離れる).
      3. 不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:青年または成人では,落ち着かない感じのみに限られるかもしれない).
      4. 静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない.
      5. しばしば”じっとしていない”またはまるで”エンジンで動かされているように”行動すある(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる他の人達には,落ち着かないとか,一緒にいることが困難と感じられるかもしれない).
      6. しばしばしゃべりすぎる.
      7. しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう会話で自分の番を待つことができない).
      8. しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき).
      9. しばしば他人を妨害し,邪魔する(例:会話,ゲーム,または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない:青年または成人では,他人のしていることに口出ししたり,横取りすることがあるかもしれない).
  2. 不注意または多動-衝動性の症状のうちのいくつもが12歳になる前から存在していた.
  3. 不注意または多動-衝動性の症状のうちのいくつもが2つ以上の状況(例:家庭,学校,職場:友人や親戚といるとき;他の活動中)において存在する.
  4. これらの症状が,社会的,学業的,または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある.
  5. その症状は,統合失調症,または他の精神症の経過中にのみ起こるものではなく,他の精神疾患(例:気分症,不安症,解離症,パーソナリティ症,物質中毒または離脱)ではうまく説明されない.
    • いずれかを特定せよ

    • P90.2不注意・多動衝動性が共にみられる状態像:過去6カ月間,基準A1(不注意)と基準A2(多動・衝動性)をともに満たしている場合
    • F90.0不注意が優勢にみられる状態像:過去6カ月間,基準A1(不注意)を満たすが基準A2(多動衝動性)を満たさない場合
    • F90.1多動・衝動性が優勢にみられる状態像過去6カ月間基準A2(多動-衝動性)を満たすが基準A1(不注意)を満たさない場合

      該当すれば特定せよ

    • 部分寛解:以前はすべての基準を満たしていたが,過去6カ月間はより少ない基準数を満たしており,それらの症状が,社会的,学業的,または職業的機能に現在も障害を及ぼしている場合

      現在の重症度を特定せよ

    • 軽度:診断を下すのに必要な項目数以上の症状はあったとしても少なく,症状がもたらす社会的または職業的機能への障害はわずかでしかない.
    • 中等度:症状または機能障害は,「軽度」と「重度」の間にある.
    • 重度:診断を下すのに必要な項目数以上に多くの症状がある,またはいくつかの症状が特に重度である.または症状が社会的または職業的機能に著しい障害をもたらしている.
American Psychiatric Association: Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fifth edition text revision, Washington, DC, 2022.(高橋三郎,大野裕 監訳,染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,三村將,村井俊哉,中尾智博 訳:DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル,東京,医学書院,2023).