事例 12食べることに関する問題むちゃ食い症、神経性過食症、神経性やせ症
単純に食べ過ぎてしまう場合も含む
食べることに関する問題は女性の10人に1人が人生のうちに一度は経験するものと言われています。(実際には5人に1人という説もあります)
摂食症(食べることに関する問題)という言葉に対して極端な過食嘔吐や拒食をイメージされる方も多いとは思いますが、「食べたくないのに食べてしまう」「ダイエットが成功しない」「ストレスがかかると食べてしまう」などと言われれば、当てはまる方も多いのではないでしょうか。
このような、DSM等の食べることに関する問題の診断には至らないものの、自分ではうまく食べることをコントロールできないという「摂食症未満」の状態にある方がたくさんいらっしゃいます。
食べることに関する問題、摂食症未満の原因は自制心の問題ではありません。
ボディイメージや食事コントロールのゆがみの背景には親子関係、(性的)虐待、トラウマ等の問題が絡み合っています。
根本的な解決をすることで、自然とボディイメージが改善して自分の容姿が気にならなくなったり、実際に食べる量が変化して見た目も良い方へ変わっていく方もいらっしゃいます。
相談例
食べることに関する問題を一番目の悩み相談に持ってくる方は意外と少ないです。
他の悩みがあって話を聞いていくと実は過食嘔吐もしていらっしゃることが多いです 。
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食べ過ぎて吐いてしまうことがある
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やせたら「きれいになったね」と言われたことがある
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太るのが怖い
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食べ過ぎてしまう、それを人に見られないようにする
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体重の増減にこだわり、1日に何度も体重をチェックしてしまう
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周りには「痩せている」と言われるが、自分では太っていると思っている
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食べ物のカロリーを気にして、ローカロリーの物ばかり食べる
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食事をよく残すようになった
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健康に異常はないが、立ちくらみやめまいが多い
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あまり食べていないのに、やたら元気でよく動き回る傾向がある
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完璧主義で、頑張り屋。「〜しなければならない」思考が強い
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食べた後、何時間もトイレや部屋にこもる
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たくさん食べているのに、太らない
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食べた後、落ち込んだりふさぎこんだりする
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話題は食べ物のことばかり
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自己評価が低い
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よく謝る
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自分を抑えて、周りに合わせようと気を遣い過ぎる傾向がる
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食べだすと止まらないことがある
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ものごとや人間関係を悪くとらえる傾向がある
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ものごとや人間関係を被害的にとらえる傾向がある
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人を信頼できない
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昔、度合いを問わず、性的ないたずら(被害)にあったことがある
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自信がもてない
DSM-5-TRによる神経性やせ症/神経性無食欲症の診断基準
このカテゴリーは,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こす食行動症及び摂食症に特徴的な症状が優勢であるが,食行動症及び摂食症群の診断分類におけるどの障害の基準も完全には満たさない場合に適用される。食行動症又は摂食症,特定不能のカテゴリーは,臨床家が,特定の食行動症及び摂食症の基準を満たさないとする理由を特定しないことを選択する場合,およびより特定の診断を下すのに十分な情報がない状況(例:救命救急室の場面)において使用される.
神経性やせ症
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必要量と比べてカロリー摂取を制限し,年齢,性別,成長曲線,身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る.有意に低い体重とは,正常の下限を下回る体重で,児童または青年の場合は,期待される最低体重を下回ると定義される.
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有意に低い体重であるにもかかわらず,体重増加または肥満になることに対する強い恐怖,または体重増加を妨げる持続した行動がある.
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自分の体重または体型の体験の仕方における障害自己評価に対する体重や体型の不相応な影響,または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如
コードするときの注:ICD-10-CMコードは下位分類(下記参照)による.
いずれかを特定せよ
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F50.01摂食制限型:過去3カ月間,むちゃ食いまたは排出行動(つまり,自己誘発性嘔吐,または緩下剤利尿薬,または浣腸の乱用)の反復的なエピソードがないこと.この下位分類では,主にダイエット,断食,および/または過剰な運動によってもたらされる体重減少についての病態を記載している.
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F50.02むちゃ食い排出型:過去3カ月間むちゃ食いまたは排出行動(つまり,自己誘発性嘔吐.または緩下剤利尿薬,または浣腸の乱用)の反復的なエピソードがあること
該当すれば特定せよ
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部分寛解:かつて神経性やせ症の診断基準をすべて満たしたことがあり,現在は,基準A(低体重)については一定期間満たしていないが,基準B(体重増加または肥満になることへの強い恐怖.または体重増加を回避する行動)と基準C(体重および体型に関する自己認識の障害)のいずれかは満たしている.
- 完全寛解:かつて神経性やせ症の診断基準をすべて満たしていたが,現在は一定期間どの診断基準も満たしていない.
現在の重症度を特定せよ
重症度の最低限の値は,成人の場合,現在の体格指数(BMI:BodyMassIndex)(下記参照)に,児童および青年の場合,BMIパーセント値に基づいている.下に示した各範囲は,世界保健機関の成人のやせの分類による.児童と青年については,それぞれに対応したBMIパーセント値を使用するべきである.重症度は,臨床症状,能力低下の程度,および管理の必要性によって上がることもある.
- 軽度:BMI≧17kg/m²
- 中等度:BMI16~16.99kg/m²
- 重度:BMI15~15.99kg/m²
- 最重度:BMI<15kg/m²
American Psychiatric Association: Diagnostic and statistical manual of mental disorders,
Fifth edition text revision, Washington, DC, 2022.(高橋三郎,大野裕 監訳,染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,三村將,村井俊哉,中尾智博 訳:DSM-5-TR
精神疾患の診断・統計マニュアル,東京,医学書院,2023).
DSM-5-TRによる神経性過食症の診断基準
- 反復するむちゃ食いエピソード.むちゃ食いエピソードは以下の両方によって特徴づけられる.
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他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる.
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そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない,または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚).
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体重の増加を防ぐための反復する不適切な代償行動.例えば,自己誘発性嘔吐:緩下剤,利尿薬他の医薬品の乱用:絶食:過剰な運動など
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むちゃ食いと不適切な代償行動がともに平均して3カ月間にわたって少なくとも週1回は起こっている.
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自己評価が体型および体重の影響を過度に受けている.
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その障害は,神経性やせ症のエピソードの期間にのみ起こるものではない.
該当すれば特定せよ
- 部分寛解:かつて神経性過食症の診断基準をすべて満たしていたが,現在は一定期間,診断基準のすべてではなく一部を満たしている.
- 完全寛解:かつて神経性過食症の診断基準をすべて満たしていたが,現在は一定期間.診断基準のいずれも満たしていない.
現在の重症度を特性せよ
重症度の最も低いものは、不適切な代償行動の頻度に基づいている(以下を参照)、他の症状および機能の能力低下の程度を反映して、重症度が上がることがある.
- 軽度:不適切な代償行動のエピソードが週に平均して1~3回
- 中等度:不適切な代償行動のエピソードが週に平均して4~7回
- 重度:不適切な代償行動のエピソードが週に平均して8~13回
- 最重度:不適切な代償行動のエピソードが週に平均して14回以上
American Psychiatric Association: Diagnostic and statistical manual of mental disorders,
Fifth edition text revision, Washington, DC, 2022.(高橋三郎,大野裕 監訳,染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,三村將,村井俊哉,中尾智博 訳:DSM-5-TR
精神疾患の診断・統計マニュアル,東京,医学書院,2023).